日本IR協会について

第2回 IR 実現に向けての課題~政治的合意形成の難しさ~

大阪商業大学・総合経営学部教授 美原 融氏
― 2014年11月掲載 ―

国会における政策立案・立法化に向けての動きは政党政治が実践されている我が国では政党単位の動きが基本になる。与党である自民党では、これが省庁単位に分かれた部会、政務調査会、総務会と合意形成の段階を経て、党としての機関決定がなされ、党議拘束をかけ、議会に諮ることになる。組織の名称は異なるが、この基本的な意思決定の在り方は野党でも同一であり、賛成、反対様々な政党間レベルでの議論の枠組みが各党レベルで決定する。所詮国会は衆参両院いずれもが数の世界でもあり、与党を中心に多数派を構成できうれば、法案は可決できる。一方、国会での実際の審議は衆参両院とも、常設の委員会に審議を付託し、この委員会での審議が国会審議の基本となる(本会議はこの結論を追認するだけの機能になる)。単純でなくなるのはここからで、国会の会議日程は常会、臨時会とも日数が限られるため、国会対策委員会(国対)レベルで与野党が、法案審議の優先度、順序、審議時間や審議の進行の在り方等を一定のルールや慣行に基づき合意し、審議がなされることになる。ここに、与野党間の駆け引き、取引、貸し借り等も生まれることになり、数の力のみではない世界がここにある。更に個別法案に係る各党レベルの事情や、政府あるいは官邸の意思等も入って来るので、実態は魑魅魍魎の世界になる。

尚、法案には内閣が提出する閣法と国会議員が提出する議員立法の二つの種類がある。いずれの場合も、上記政党間の合意形成プロセスを経る。法律上は議員が自由に法案を国会に上程できる仕組みでもあるのだが、議員個人ないしはそのグループがバラバラに動いても、国会の運営はできず、これでは合意形成は難しくなる。よって、例え議員立法案でも、国会に上程するためには、政党内部での合意形成を必要とする。単独政党の議員による議員立法案は、当該政党内での合意形成となるが、これが超党派の議員連盟による議員立法案となると、関連する複数政党が各々党内の合意形成を試み、一定の合意を得て、議案が上程されることになり、時間もかかり、調整も結構大変な作業になる。

この様に、国会における政治的な合意形成は、様々な仕組みや慣行のもとで実現するのだが、数ある法案の中で、最も取扱いが複雑になり、時間がかかるのが、議員の個人的な倫理観、宗教観等により賛否が分かれる議案になる。この場合には、政党内部での合意形成が難しく、党議拘束という形で議員の意思を拘束することは難しくなり、政党としての方針は決められず、議員個人の自由投票という形をとる。この難点は、政治的合意形成の在り方が見えにくくなるという点に尽きる。

現在国会で審議途上にあるIR 推進法案は、上記全ての難しさを具備した法案であるのかもしれない。加えて、プログラム法案と呼ばれる理念・方針のみを規定する法案は、議員立法案としてはポピュラーなのだが、詳細規定があるわけでもないため、本来的にその全容は解り難い。この解り難さが議員のみならず国民や報道機関にも懸念を抱かせたり、慎重な議論を求めたりする遠因となっている。閣僚不祥事等により混乱した国会は、今週から正常化しつつあるが、会期は限られ、審議日程が極めてタイトになることから、この法案の帰趨にも不透明感が漂っている。単純多数決の計算ならば、当然可決・成立しうる法案なのだが、国会内部の合意形成の手順やルールを踏むと、膨大な時間と調整力をかけなければ、実現しえないということが我が国の政治の現実でもある様だ。国会議員を含めた利害関係者は、現状かなりの努力を傾注している。一方外野としての報道はますます第三者的に、若干否定的な評論家的立場をとりつつある。では国民はどうか。国民は正確、かつ詳細な情報を提供されたうえで法案の可否を判断しているのであろうか。